「へえ、そこまで知ってるんだ」
「他校の生徒が校舎に無断で入り込んでるのも問題だが、わざわざ制服まで用意して身分を偽ってんのは明らかに悪質だ。すぐに先生呼んで摘み出してもらう」
先輩は土佐辺くんの指摘を否定しなかった。本当に将英学園の生徒じゃなかったんだ。
「おっと。教師を呼ぶ気? その前に瑠衣くんの秘密をバラしちゃおっかな」
「っ!」
腕の中に捕われたまま、僕は縋るような目で先輩を見上げた。先輩を追い詰めたら僕の気持ちを土佐辺くんに暴露されてしまう。
「せ、先輩お願い、言わないで!」
「どうしよっかなぁ~」
秘密を握られている僕は先輩が不利になるような真似は出来ない。それを分かった上で先輩は僕を離さないのだ。
「……安麻田」
「ごめん土佐辺くん。先生は呼ばないで」
「良い子だねぇ瑠衣くんは」
先輩が先生に見つからずに校舎から出られれば、今日のところは終わる。
でも、その後は?
ずっと脅され続けるんだろうか。秘密を守ってもらう代わりに先輩と付き合わなくてはならないのだろうか。土佐辺くんに、みんなに嘘をつき続けなくてはならないんだろうか。
「……うっ……」
情けなくて涙が出てきた。元はと言えば、迅堂くんを好きになった僕が悪い。諦めきれずにズルズルと好意を持ち続けたから罰が当たったんだ。僕はずっと間違ったことをしていたんだから。
涙目の僕に、土佐辺くんが優しい目を向けた。