「うちのクラス、何やればいい?」
「メイド喫茶やろーぜ!」
「男子も着るならメイド服着てもいいよ」
本日の議題は秋に行われる文化祭の出し物について。盛り上がるクラスメイトたちを教室の後ろの席から眺める。こうした話し合いで発言するのはクラスでも明るく活発な子たちばかりで、僕みたいな消極的な者は誰かが決めてくれたことに従うだけ。意見を言ったことはない。
「ねえ、土佐辺くんはどう思うー?」
女子から話を振られたのは気怠げに頬杖をつき、足を組んでスマホを弄っている土佐辺くん。彼はやや吊り目がちな目を一瞬女子に向けた後、すぐにスマホに視線を戻して口を開いた。
「メイド喫茶は三年がやるってさ」
「ええーっ!?」
みんなが驚きの声を上げ、落胆する。
「オレらは別の出し物考えよう」
「え~っ、そんなぁ~!」
「もう、早く言ってよ土佐辺くん!」
「悪い。ついさっき決まったばっかだから」
先ほどから彼が弄っているスマホで情報収集をしているのだろう。同学年ならともかく上の学年の動向をリアルタイムで把握しているとは、相変わらず彼の情報網はすごい。
じっと見ていたら、土佐辺くんと目が合った。
でも、すぐにあちらからそらされてしまう。
彼とは小中高と同じ学校だけど特に親しくはない。社交的で人気者な彼と気弱で地味な僕は、二年になって同じクラスになってからも喋ったことは数えるほどしかない。