気がつくと日和は、大正時代のような街並みの世界へと来ていた。


「お、鬼神様っ……」
「ああ、自分で歩くのはまだ危ないからな。もう少し慣れてからにしよう」


そう言うと、ちゅっと額にキスを落とされる。
嫌でも嬉しくもないその行動。
 

「日和、お前と結婚をしたら伝えたいことがある」
「伝えたいこと……?」
「ああ。お楽しみだ」

にっと微笑んだ由貴に、少し心を奪われてしまった。だから、すぐに顔を背ける。


しばらく歩く2人。


「……綺麗ですね、ここ」
「ああ。そうだろう、あやかしはこういうのが好きなんだ。新しいことが、嫌いでな。まぁ僕はちがうが」
「へぇ……」
「……で、日和はどんな白無垢が着たいんだ?」
「しろむく……?」
「ああ。結婚するときに着る服だ」
「え、えっと……ごめんなさい、まだそこまで考えられないっていうか……私なんて、一生ひとりぼっちだと思っていたので……」


悲しげに瞳を揺らす日和を見て、どんよりしてしまった由貴は、何かを誘うように指先を踊らさせる。


「お前は好きなもの、あるか?」
「ないです……」
「ではひとつ、作ってやろう」
「作る……?」


白い光が舞って、1箇所に集まっていく。
それは、ハロウィーンなどでよく見るようなデフォルメ調のお化けだった。


「……ひよりさま!」
「しゃ、喋った……!?」


びっくりして、思わず鬼神にしがみつく。すると、満足げに由貴は微笑んだ。

どうやらそれは鬼神が作り上げた妖怪らしい。日和の友達だと。


「名前は、お前が決めていいぞ」
「え、えぇ……じゃあ、みかさま……?」
「みか?いい名前だな。様付けなどしなくてもいいのだぞ?」
「い、いえ……あやかし様の作り出したものなので」
「そうか。ではみか、今日から日和と仲良くしてやってくれ」
「はい!」


みかは名前をもらえてとても嬉しそうに微笑んだ。
3人で屋敷の方に歩いていく。どんどんと道の先にあやかし様が増えていき、視線を感じた。


「緊張などしなくていい。皆、僕の領民だからな」
「そ、そうなのですかっ……?」
「ああ。鬼神家は鬼の家系で最も高い地位を誇っているのだぞ」


ポカンと空いた口が塞がらなくなっている日和を見て、思わず笑を溢す。


「え、そ、そんなお方に私は見初めていただけたのですか!?」
「ああ、そうだ。誇りに思え、お前は最高の花嫁だぞ」
「あ、ありがとうございます……?」