「あら?もう2人とも帰ってきてたのね」
「お母さん!おかえり〜!」

ぎゅうっと母親に抱きついた李莉。


「私の可愛い李莉〜今日はケーキ買ってきたわよ!あなたの好きなショートケーキをね」
「ありがとう!」
「今日は100年に一度の日。こんなに可愛い李莉ならきっとすぐお嫁にされちゃうわ。だから、最後にあなたを堪能させて」
「うん!お母さん!!」


抱きしめる腕を強めた李莉。


「わ、私部屋に戻ります……」


玄関に由貴の靴はなく、幸い正体がバレることはなかった。


ガチャリと部屋の扉を開けると、すぐに由貴の顔が目に入る。


「大丈夫だったか?」
「は、はい……お母さんが帰ってきたから、李莉からは何も」
「そうか。外が暗くなるまで残り4時間か」
「はい……」
「暇だな。出かけるか?」
「不用意に外出できないんです」
「窓から出ればいい」


そう言って窓を指さす。だけど、日和は首を左右に振った。


「もしかしたら、お父さんも帰ってくるかも知れないし……私、本当にあなたのお嫁さんになるんですよね……?」
「ああ。嫌と言ってもだめだぞ」
「……いえ、この家から出ていけるならいいです」
「そうか。じゃあ決定だな。最後に父親に会ってから行きたい……そう言うことだな」
「はい」


かくりよに行ったら、もう2度とこの世界に来れないかもしれない。怖くて聞けなかった。

だから、最後に会うつもりで大好きな父親の顔は見たかった。


3時間後、母親が豪勢な食事を作り終えたタイミングで父親は現れた。

今日は日和に料理をさせることはなく、部屋にこもっていられたのだ。

3時間、由貴とだいぶ気まずい時間を過ごす羽目になるかと思いきや、意外と話すのが楽しくて。

というか、人……否、あやかしでも誰かとこんなに長時間話したことがなかった。だから、それが嬉しかったのだ。


「お父さん……」
「日和!久しぶりだな」
「うん……!」


ポンッと頭を撫でられる。


「お前たちに何かあるかもしれないと思って急いで帰ってきたんだ。2時間しかいれないが、許してくれ……」
「ううん、来てくれてありがとう……!」


日和がそう言えば、父親はにこっと優しく微笑んだ。


「さぁ日向さん!ご飯食べましょ!」


母親が父親(日向)にそう言うと、ああと嬉しそうに行ってしまった。


李莉、日和。父親、母親と机を囲む。

家と、父親から離れるのが寂しくて、少し目が潤んでしまう。


「あら。お姉ちゃん泣きそう。心配してるの?私が娶られないか」
「えっ……う、うん……もしそうだったら、嫌だなって……」

誤魔化すために嘘をついた。