ちくりと胸に刺さる。それは僕にもあてはまる部分があった。

「自分がどうしたいのかが軸になって、周りの何事も決めつけて動いてました。復讐は……ただの自己満足だった」

 ぎゅ、と両手を握りしめる。
 目の前の彼からは、冷めきって盲目的に自分の世界に閉じ込もっていた以前の面影は窺えない。

 あのときは見たいように見ていただけだった。
 感情に囚われて、本質を見失っていた。

「自分だけが可哀想なわけでも正しいわけでもなかった。少し顔を上げれば、気づけたかもしれないのに……」

 菅原はもう一度、手をついて深く腰を折った。

「本当にすみませんでした」

 重傷を負った彼女が意識を取り戻した時点でも、菅原は同じようにこうして謝罪した。
 ダイレクトメッセージや無言電話、盗撮、つきまとっていたこと、そんないわゆるストーカー行為と、黒板に写真を貼り出して暴露したこと、それらすべて自分の仕業だったと認めて。

「…………」

 痛切(つうせつ)な表情を浮かべる彼女は、いつの間にか胸に手を当てていた。
 ────あの夜の傷が、わずかに残ったと聞いた。
 それぞれの過ちの結果が具現化(ぐげんか)し、(いまし)めのようにそこにある。

 彼女はややあって口を開いた。

「……もう十分、何度も謝ってもらったよ。謝らなきゃいけないのはわたしの方」

 沈痛ながら真剣な面持ちになる。

「ごめんなさい。お姉さんのこと、本当に申し訳なかったと思ってる。ごめんなさい……」

 階段からの転落と錠剤の誤嚥に因果関係があるのかどうかは分からないが、血を流して倒れた菅原の姉を、彼女と結菜は見捨てて逃げた。
 それが罪じゃないとは、言えない。

「……姉は、そそっかしいところがあったんです。階段で転んだり薬詰まらせてむせたりなんてしょっちゅうで」

「え……」

「だから、あの日のことは“特別”でも何でもなかったのかもしれない。いつかそのうち起こるはずだったことが、あの日たまたま起きただけで」

 菅原は静かに言った。
 それは、彼女への憎しみを募らせていた頃には考えようともしなかったことだろう。

「……もうそれ以上、自分を責めないでください」

 彼女の睫毛が驚いたように揺れる。口端を結び、噤んだ。
 それを見て、僕は彼女に身体ごと向き直る。

「僕も、ごめん」

 そう告げてしまうと、心の底に沈んでいた思いがかき回され、上澄みの部分と混ざって濁る。

「ずっと、きみを誤解してた。結菜のために真実をねじ曲げて」