そうねじ伏せると、彼女は当初怯んだ素振りを見せたものの、すぐに受け入れてほくそ笑んだ。

 優翔と円花の仲に嫉妬して、円花さえいなくなれば彼の心を得られると本気で信じている乃愛を操るのは、これほど容易なことだった。

「……どういうつもり?」

 優翔が気色ばむ。ひそめる眉と低めた声からして、苛立っていることは明白だ。

「いまの茅野は僕だって知ってるくせに、勝手な真似してくれたよね。僕が殺されるところだった……!」

「先輩こそどういうつもりですか」

 怯みも悪びれもせず、新汰が言を返す。
 食ってかかる勢いで()めつけた。

「俺たちの目的はひとつ。茅野先輩への復讐ですよね」

 だからこそ、彼らは手を組んだ協力関係にある。共闘と呼ぶ方が正しいかもしれないが。

「彼女を殺すまたとないチャンスが巡ってきたってのに、いつまで待たせるんですか」

「それは……自殺じゃどうなるか分からないでしょ。中身に引っ張られるんだったら、僕が死ぬかもしれない」

「そんな言い訳……。本気で言ってます?」

 新汰の気迫に気圧され、しどろもどろな調子になる。
 呆れたように言った彼は、強く拳を握りしめると悔しそうに唇を噛んだ。

「結菜は……あいつのせいであんなことになったんですよ」

 透き通るような彼女の笑顔を思い出す。
 あんなに優しかったのに。あんなに────好きだったのに。

 何もかも円花のせいでめちゃくちゃだ。彼女がいじめなんて低俗(ていぞく)なことをしていたせいで。
 結菜の笑顔を奪って、日常を壊した円花が、こうも憎くてたまらない。

「だから、ものも言えずに動けなくなった結菜の代わりに復讐しよう、って……。そのために協力してるんですよね、俺たち!」

 まくし立てる新汰の剣幕に言葉を失った優翔は、口を噤んでいた。
 普段おさえ込んでいるあらゆる激情の片鱗があふれ、“同志”であるはずの優翔の胸まで抉っていく。

「……その女と入れ替わって、情でも湧いたんですか?」

 新汰が吐き捨てるように笑う。

「いまは味方のふりして油断させてるけど、あいつと恋愛ごっこなんて反吐(へど)が出る。俺にも限界があります」

 その言葉通り、嫌悪感を隠そうともせずに表情を歪めた。
 もうそろそろ、我慢の限度を超えかねない。

「できないなら俺がやる。さっさと(かた)つけましょ、先輩」

 隙のない双眸(そうぼう)に捉えられ、優翔でさえもつい怖気(おじけ)づいてしまう。
 しかし、それを表に出さないよう平静を装った。

「……分かってる。僕がやる」

 毅然と言ってみせると、一拍置いて新汰が辟易(へきえき)したようにため息をついた。

「その顔見るだけで殺したくなる。早く元に戻ってくださいよ」