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 菅原くんとふたりで入ったファミレスの店内には、時間帯もあってそれなりに人の姿があった。
 彼と向かい合って座り、ドリンクバーで取ってきたアイスティーをひとくち含む。

「……それで、話って?」

 平静を保とうとしても、どうしても態度の端々に警戒心と不信感が滲み出てしまう。

 彼は無条件に、善意でわたしに協力してくれている味方だったはずなのに、数日のうちにその印象ががらりと塗り替えられた。
 いまは、信じていいものか分からない。

「いや、そういうんじゃなくて。ここのところどんな感じなのか気になっただけです。何か進展ありました? 元に戻りそうな兆しとか」

 なんだ、とわずかばかり肩の力が抜ける。

「ううん、だめ。昔のことは思い出したけど、やっぱそれだけじゃ戻れないみたい」

「思い出したんですか」

 珍しく菅原くんの表情が変わった。驚いたように目を見張っている。

「あ、うん。でも、肝心な部分は忘れてて……。とりあえず、若槻とまた話さなきゃ」

 結菜にまつわる諸々(もろもろ)の真相も、わたしたちの罪も。
 どんなにショッキングな内容だろうと、わたしには伝える義務があるし彼には聞く権利があると思う。
 ひとまず誤解を解いて、話を聞いてもらわないと。

「…………」

 菅原くんは口を噤んでしまい、それ以上は何も言わなかった。
 結菜の幼なじみだということは、あくまで隠し通すつもりのようだ。
 本当に気づいていないだけの可能性も捨てきれないけれど。

「────先輩って」

 ややあって、ふと彼が口を開く。
 身構えてしまうほど険しい顔をしていた。

「乙川乃愛と面識ありましたっけ?」

「えっ?」

「若槻先輩じゃなくて、茅野先輩の方が」

 突然、転換された話題に困惑する。
 頭の中に乃愛のことが浮かんだ。

 存在感があって、色々な意味で濃い人物だから印象深い感じがするけれど、彼女と関わったのは、いまのこの若槻の姿になってからのこと。
 入れ替わる前のわたしは、まともに話したこともなかったはずだ。

「どうして?」

「気づいてると思うけど、あいつ、若槻先輩のこと好きなんですよ」

 確かにその予感はあったから驚かない。きっと、若槻自身もそうだろう。

「でもって、俺と茅野先輩が付き合ってること知らないから、茅野先輩を逆恨みしてて……。ほら、先輩たちって何かとふたりでいること多かったでしょ」