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 “3年前のことで先輩に大事な話があります。待ってるから来てね”

 それは、茅野が意識を失ってから彼女のスマホに届いたダイレクトメッセージだった。
 渾身(こんしん)の力を振り絞ってベッドに寝かせておいた彼女にバレないよう、ロックを解除してSNSを開く。

「!」

 ダイレクトメッセージの一覧には、いわゆる“捨て垢”の数々から実に気味の悪いメッセージが届いていた。
 ずっと見ているだとか、逃げても無駄だとか、ストーカーじみた内容に嫌悪感を覚えつつも、ひとつ納得がいく。

(……ああ、これのことか)

 茅野は確かに、誰かにつけ回されていることや不審なダイレクトメッセージが届いていることを口走っていた。

 だが、僕と入れ替わってからはぱったりと止んでいる。
 僕は特別鈍感なわけでもないし、盗撮や尾行されていたら気づくはずだ。
 ダイレクトメッセージの日付を見ても、やっぱりストーカーの気配は遠ざかっていると言えた。

 とはいえ、そのストーカー云々(うんぬん)はともかくとして、ついさっき届いたメッセージの送り主は分かっていた。
 捨て垢ではなかったから。名前もアイコンもそのままで、素性を隠す気もない。

「乙川……?」

 僕に対して常に露骨な好意をアピールしてくる、あの厄介な後輩。
 学校付近にある小さな廃工場の位置情報が添付されている。ここで待ってるから来い、というわけだ。

(茅野を呼び出してるんだよな? 彼女は入れ替わってることを知らないはず……)

 ちら、と目を閉じている茅野を一瞥(いちべつ)する。
 “僕”は僕以上に乙川に友好的に接していたように見受けられたが、その核心部分については明かしていないだろう。

 もう一度、警戒しながらメッセージを読んだ。
 3年前というと、結菜が自殺を図った時期だ。
 彼女の“大事な話”とは、まさかそれについてなんだろうか。

 何かの罠かもしれない、とも思った。
 僕が茅野と親しくしていたのは、復讐のために陥落(かんらく)しようという思惑があったからだったが、乙川の目から見ればたまったものじゃなかったはず。
 茅野をよく思っていない、というのは盗聴した結果からしても間違いないのだ。

 それでも、もし結菜に関することなら無視はできない。
 僕は「分かった」とだけ返しておくと、トークルームごと削除してから彼女の呼び出しに応じることにした。