◆
“3年前のことで先輩に大事な話があります。待ってるから来てね”
それは、茅野が意識を失ってから彼女のスマホに届いたダイレクトメッセージだった。
渾身の力を振り絞ってベッドに寝かせておいた彼女にバレないよう、ロックを解除してSNSを開く。
「!」
ダイレクトメッセージの一覧には、いわゆる“捨て垢”の数々から実に気味の悪いメッセージが届いていた。
ずっと見ているだとか、逃げても無駄だとか、ストーカーじみた内容に嫌悪感を覚えつつも、ひとつ納得がいく。
(……ああ、これのことか)
茅野は確かに、誰かにつけ回されていることや不審なダイレクトメッセージが届いていることを口走っていた。
だが、僕と入れ替わってからはぱったりと止んでいる。
僕は特別鈍感なわけでもないし、盗撮や尾行されていたら気づくはずだ。
ダイレクトメッセージの日付を見ても、やっぱりストーカーの気配は遠ざかっていると言えた。
とはいえ、そのストーカー云々はともかくとして、ついさっき届いたメッセージの送り主は分かっていた。
捨て垢ではなかったから。名前もアイコンもそのままで、素性を隠す気もない。
「乙川……?」
僕に対して常に露骨な好意をアピールしてくる、あの厄介な後輩。
学校付近にある小さな廃工場の位置情報が添付されている。ここで待ってるから来い、というわけだ。
(茅野を呼び出してるんだよな? 彼女は入れ替わってることを知らないはず……)
ちら、と目を閉じている茅野を一瞥する。
“僕”は僕以上に乙川に友好的に接していたように見受けられたが、その核心部分については明かしていないだろう。
もう一度、警戒しながらメッセージを読んだ。
3年前というと、結菜が自殺を図った時期だ。
彼女の“大事な話”とは、まさかそれについてなんだろうか。
何かの罠かもしれない、とも思った。
僕が茅野と親しくしていたのは、復讐のために陥落しようという思惑があったからだったが、乙川の目から見ればたまったものじゃなかったはず。
茅野をよく思っていない、というのは盗聴した結果からしても間違いないのだ。
それでも、もし結菜に関することなら無視はできない。
僕は「分かった」とだけ返しておくと、トークルームごと削除してから彼女の呼び出しに応じることにした。
“3年前のことで先輩に大事な話があります。待ってるから来てね”
それは、茅野が意識を失ってから彼女のスマホに届いたダイレクトメッセージだった。
渾身の力を振り絞ってベッドに寝かせておいた彼女にバレないよう、ロックを解除してSNSを開く。
「!」
ダイレクトメッセージの一覧には、いわゆる“捨て垢”の数々から実に気味の悪いメッセージが届いていた。
ずっと見ているだとか、逃げても無駄だとか、ストーカーじみた内容に嫌悪感を覚えつつも、ひとつ納得がいく。
(……ああ、これのことか)
茅野は確かに、誰かにつけ回されていることや不審なダイレクトメッセージが届いていることを口走っていた。
だが、僕と入れ替わってからはぱったりと止んでいる。
僕は特別鈍感なわけでもないし、盗撮や尾行されていたら気づくはずだ。
ダイレクトメッセージの日付を見ても、やっぱりストーカーの気配は遠ざかっていると言えた。
とはいえ、そのストーカー云々はともかくとして、ついさっき届いたメッセージの送り主は分かっていた。
捨て垢ではなかったから。名前もアイコンもそのままで、素性を隠す気もない。
「乙川……?」
僕に対して常に露骨な好意をアピールしてくる、あの厄介な後輩。
学校付近にある小さな廃工場の位置情報が添付されている。ここで待ってるから来い、というわけだ。
(茅野を呼び出してるんだよな? 彼女は入れ替わってることを知らないはず……)
ちら、と目を閉じている茅野を一瞥する。
“僕”は僕以上に乙川に友好的に接していたように見受けられたが、その核心部分については明かしていないだろう。
もう一度、警戒しながらメッセージを読んだ。
3年前というと、結菜が自殺を図った時期だ。
彼女の“大事な話”とは、まさかそれについてなんだろうか。
何かの罠かもしれない、とも思った。
僕が茅野と親しくしていたのは、復讐のために陥落しようという思惑があったからだったが、乙川の目から見ればたまったものじゃなかったはず。
茅野をよく思っていない、というのは盗聴した結果からしても間違いないのだ。
それでも、もし結菜に関することなら無視はできない。
僕は「分かった」とだけ返しておくと、トークルームごと削除してから彼女の呼び出しに応じることにした。