「正直────」

 視線を宙に彷徨わせながら、若槻がぽつりと口を開く。

「自分でも自分の感情がよく分からなくなった」

 言葉の通り、その声色からは困惑が滲み出ていた。

「きみには、情けない泣きっ(つら)で謝られても気が済まないだろうと思ってたのに。いざそうなったら……何か、気が抜けて」

 わたしもつい肩から力を抜いた。
 拍子抜けとはいかないまでも、若槻からあらゆる恨みつらみをぶつけられる気配がなくて、ひとまずほっとしてしまう。

「許せるかどうか、って聞かれたら、やっぱり許せないって気持ちが強いけど……。ただ、結菜があんなことになる前に何もできなかった。気づけなかった。それは確かに僕の責任でもあるから」

「若槻……」

「……兄失格だよ。ずっと、後悔してる」

 自嘲気味に浮かべられた儚い笑みに口を噤む。

 彼のわたしに対する恨みの裏側、いや、側面には果てしない後悔の念があったみたいだ。

 もしかすると、わたしを強く憎んでいたのは、その苦しみを誤魔化すためだったんじゃないかと思った。
 自分の責任から逃れたいがための、都合のいい解釈かもしれないけれど。

「……っ」

 胸が痛む。じわ、とおさまったはずの涙が滲んでくる。
 内側の痛覚までもが共有されているわけじゃないはずなのに。

「……ああ、もう!」

 手の甲で目元を拭った。
 クリアになった視界に、意表を突かれたような表情の若槻と、脱ぎ捨てられたカーディガンが飛び込んでくる。

「ちゃんと片づけて、綺麗にしてよ。わたしの部屋なんだから」

 間が持てなくなって口をついたのは、自分でも意図していない文句だった。
 突然、何を言ってしまったんだろう。

 こんなことを偉そうに言える立場じゃない、彼を怒らせたらどうするんだ、と即座に悔やんだけれど、意外なことに若槻は笑った。
 眉を下げながらも気を緩めたような笑い方。先ほどまで見せていたそれとは明らかにちがう。

「気が向いたらね。女の子の部屋は複雑で難しいから」

「……何それ」