ざわ、と胸の奥底が(えぐ)れて剥がれ落ちる。反論の余地もない。
 とても受け止めきれない中、ふたりから向けられた疑いの目が突き刺さってますます狼狽える。

「ちがう……」

 ふるふると弱く首を振った。
 わたしじゃない。わたしはいじめてなんかいない。だって、そんな記憶ないから。

 でも、それは無実や潔白を証明する根拠にはならない。
 ついさっき思い知ったことだ。
 わたしの頭の中に結菜の存在はなかったはずなのに、蓋を開けてみればこうして知り合いだった。

 どちらかにしか残っていない記憶が妄想と変わりないのなら、わたしのこの叫びだって、思い込みと大差ない。

『……まあ、やられた側は覚えてるけどやった側は覚えてない、ってよく聞く話ですもんね』

 不意に蘇ってきた菅原くんの言葉に動揺してしまい、思わず後ずさる。

「円花!」

 兄の声が耳を通り過ぎる。
 たまらなくなって、気づけば玄関のドアを押し開け外に飛び出していた。



     ◇



 追いかけるように足を踏み出しかけた涼介の腕を、咄嗟に掴んだ綾音が引き止める。
 黙って首を横に振った。

「何で」

「……いまは追いかけたってしょうがない。あたしたちも円花自身も、本当のことを知らないから」

 自分たちが円花を信じきれず、また円花も自身を信じられず、話をしたところで平行線を辿るだけだ。
 あるいは感情的になって収拾がつかなくなるだけ。

 綾音は落ちていた結菜の卒業アルバムを拾い上げ、掲げてみせる。

「だから、これ。これも」

「え?」

 ダンボールの中から一台のスマホを取り出した。結菜の使っていたものだろう。
 割れた画面は蜘蛛の巣が張っているように見えるほどだが、充電器に挿し込んだところ、バッテリーのアイコンが表示される。充電自体はできているようだ。

「あたしたちも手がかりを探そう」

 毅然と言ってのける。
 簡単に惑わされていたら、きっと優翔の思うつぼだ。綾音はそう思った。

 物理的に手を下すことも(いと)わないみたいだが、それだけが復讐ではないだろう。
 円花を陥れたり孤立させたりすることも、狙いのうちかもしれない。

「……分かった」

 かくしてスマホの充電を待つ間、綾音は卒業アルバムをぱらぱらとめくった。
 若槻結菜の名前と写真の載っている、クラスごとの個人写真のページで手を止める。

「……こうして見ると似てる。優翔くんと」

「確かに。目元の雰囲気とか」

「円花と涼介さんはあんまり似てないけど、いい兄妹だなぁって思うな」

「そう? 円花は割と反抗的だし、俺のこと嫌いなんじゃないかな」

 綾音は「そんなことないよ」と即座に返す。