青ざめてそんなことを考えながら歩を進めると、いつの間にか自宅のある通りに出ていた。
 脇目も振らずに門を潜り、玄関から家の中へ飛び込むなり慌てて鍵を閉める。

「……!」

 その瞬間、再びスマホが震えた。
 またしてもダイレクトメッセージの通知だ。

【逃げても無駄だよ】

 思わず息をのむ。喉元を冷ややかな空気が通り過ぎていく。
 ぎゅう、とスマホを握りしめたまま後ずさった。

(やっぱり……っ)

 わたしの背後には、本当にこのメッセージの送り主がいたということだ。

 意味が分からない。気味が悪い。
 いったい、誰がこんなことを────?

「円花?」

 玄関先で立ちすくんでいると、階段を下りてきた兄に声をかけられる。

「おかえり。何か顔色悪いけど、どうかしたのか?」

「……何でもない」

 わたしは素早く靴を脱ぎ、その横を通り過ぎた。
 何かにつけて過保護な傾向にある兄と話すのは、正直なところ面倒だった。

「おい、円花」

「…………」

 この不気味なメッセージや何やらのことを誰かに相談したい気持ちはあったけれど、わざわざ兄に話す気にはなれない。



 ばたん、と自室のドアを閉める。
 何となく不安になって急いでカーテンを引いた。

(ひとまずはこれで大丈夫だよね……)

 メッセージの相手が家までつけてきていたとしても、こうしておけばとりあえずは何もできないはずだ。

 ついため息をついてしまいながら、机の引き出しから取り出した小さな機械にイヤホンを繋げる。
 その傍ら、スマホでSNSを開き、友人たちのアカウントを順に覗いていった。

 学校やバイトの愚痴、おしゃれなスイーツの写真、その中に自分の話題がないかをくまなくチェックする。
 そのうち、ジジ、とイヤホンからノイズが聞こえた。

『……今日どっか行く?』

『あたし、いま金欠だからなぁ』

 友だちの会話を耳に、SNS内の巡回を続ける。

『ねぇ、それよりどう思う? 円花と若槻くん』

 ふと飛び出してきた名前にどきりとした。イヤホンを上から押さえて耳をすませる。

『あー、お似合いなんじゃない? やっぱりって言うべきか、さすがって言うべきか』

『だよね! むしろいままで何の接点もなかったことの方が信じられない』

『でも、若槻くんはもともと狙ってたんじゃない? 円花のこと知ってたし。もしかしたら、今日のあれもわざとだったりして』