わたしならどうするだろう。もし、兄が入院していたら。
 その状況になってみないと分からないけれど、お兄ちゃんだったらきっと若槻と同じことをするんだろうな、と漠然と想像がついた。

「ていうか、どうしてそんなに詳しいの?」

「前に一回聞いたことがあったんですよ。……ねぇ、先輩」

 菅原くんがふと真剣な面持ちになった。

「先輩が若槻先輩と幼なじみなら、妹さんも同じ学校出身なんじゃないですか」

 はっとする。さすがに心が揺れる。
 惑わされたくない、騙されたくない、とは思っていた。
 だけど、菅原くんの言葉は的を射ていて、何が言いたいのかもはっきり理解できる。

(妹さんなら、何か知ってるかも)

 わたしの兄のあてが外れたように、拍子抜けする結果に終わる可能性は十分ある。

 だけど、妹さんはきっと若槻に一番近い存在。
 わたしとのことはともかく、彼の過去について聞くことができれば、それは大きなヒントになる。

 そうやってパズルのピースを集めれば、わたしたちの因縁に、若槻の恨みの正体に、たどり着けるかもしれない。

 若槻が“怪我の経過観察”なんて嘘をついたということは、妹さんが入院しているのは恐らく、転落してから運ばれたのと同じ病院だろう。

「…………」

 菅原くんの言葉なんて簡単に信用するべきじゃない。
 それでも、いまはそこ以外に糸口が見当たらない。わたしは腹を括った。

(……会いにいってみよう)

 そして、聞こう。
 過去の空白部分を。



     ◇



 休日、わたしはさっそく若槻の妹が入院していると思しき病院へ向かった。

 この姿なら会うのも難しくないはずだ。
 あとはわたしがうまく振る舞えるかどうかだけれど、場合によってはもう本当のことを明かしてもいいような気がしていた。

 わたしと彼の過去の繋がり、恨まれるに至ったきっかけを知ることの方が重要なんじゃないだろうか。

(若槻……若槻……)

 病室のネームプレートを確かめながら院内を彷徨い歩く。

 彼女がどうして入院しているのかも個室か大部屋かも知らないから、手こずることは覚悟の上だ。
 そもそも、本当にこの病院なのかどうかも確定しているわけじゃないから無駄骨になるかもしれない。
 それ以上に知っていることがないのか、菅原くんにもっとちゃんと聞いてこればよかった。

 そんなことを悶々(もんもん)と考えながら、別の棟の廊下へ足を踏み入れる。

「……あら、優翔くん?」