それはそうだろう。わたしだって意味が分からない。
 若槻に一応ああ説明されたけれど、何だか飛躍しすぎている気がしていた。

「それでいて優翔くんともこそこそ話してたりするから、何か変だなぁって本格的に思い始めてさ」

 そう言った綾音がふとまじめな顔つきになる。つられて少し緊張した。

「そんなときにね、あいつが接触してきたの」

「あいつ?」

「菅原」

「え……っ」

 思いもよらない展開に、声に全面的な戸惑いが乗った。
 菅原くんが綾音と話をしにいっていたなんて初耳だ。

「それで、言われたんだよね。円花と優翔くんが入れ替わってる、って」

「うそ……?」

「ほんと。非現実的な話だけど、何か“やっぱりな”って不思議と納得しちゃって」

 どういうことなのだろう。
 菅原くんはどうして、わたしに無断でそのことを綾音に伝えたんだろう。

「それでね、そのとき言われたんだ。円花を守るふりをすれば、間違いなく涼介さんからの株が上がるだろうって」

「それって……」

「そう、菅原はひとつ勘違いしてた。それが、あたしが涼介さんを好きだってこと。だからあたしはそれに乗っかったの」

「何のために?」

 反射的に聞き返すと、綾音は当然のように言う。

「暴くためだよ、菅原の狙いを」

 言われてみれば確かに妥当な理由に思えた。そのために一度、わたしを裏切ってみせたんだ。

「昨日の夜、歩道橋に涼介さんを呼んだのはあたしだけど、菅原に言われたからだったんだ。“円花が変な男につきまとわれてて危ない”って言って呼び出せばいい、点数稼ぎのチャンスだ、って。半信半疑だったけど……」

「……そっか、それで俺は誤解したのか。“変な男”がその優翔くんとやらだって」

 聞けば聞くほど、胸の内にもやもやとしたものが巣食う。違和感が膨らむ。

「待って……。でも、おかしいよ。そもそも歩道橋に若槻を呼び出そうって言い出したの菅原くんなんだよ。それじゃ自作自演っていうか、何がしたいのか意味分かんない」

「ん? 円花、菅原と接点あるの?」

「……その前に、何で円花はそんなことを?」

 静かに兄が尋ねてきた。
 先ほどまで散々目を見て話していたはずなのに、何だかまともに顔を見るのさえ久しぶりなような、妙な気まずさを覚える。

「えっと……入れ替わったときの状況を再現すれば元に戻れるんじゃないか、って話になって。わたしと若槻、あの歩道橋の階段から落ちて入れ替わったから」