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【着きました。若槻先輩もいます】

【了解、いまから行くね】

 菅原くんに返信すると、例の歩道橋へ向かって夜道を歩き出す。
 連絡先は昼休みの段階であらかじめ交換しておいた。

(なるべく早く合流しないと)

 善意(と好意)で協力してくれている菅原くんが、若槻に怪しまれるような事態は避けたい。
 そう思って歩速を上げたとき、最近は無縁となっていたはずの音を聞いた。

 ──カシャ

 無機質なカメラのシャッター音。驚いて反射的に振り向くけれど、誰もいない。

「菅原くん……?」

 せり上がってくる不安と恐怖から、口をついたのは彼の名前だった。
 ちがうはずだ。つきまとっていたことは認めたけれど、盗撮まではしていなかったはず。本人がはっきりと否定していた。

 それでも根本の部分では疑惑が晴れていなかった。信じきれていなかった。
 彼の仕業なのではないか、と真っ先に思ってしまったのはそのせい。

(……もうやだ。考えたくないし、早く行こう)

 姿の見えないストーカーも、入れ替わりなんて非現実的な現実も、見たくない自分の側面を容赦なく突きつけてくる。

 目を背けることも逃げることも許されないけれど、それでもいまは逃げるように先を急いだ。
 その途中で、はたと気がつく。

(あれ……?)

 先ほどのシャッター音が例の盗撮犯だとしても、いまのわたしは若槻の見た目をしている。

 どういうことだろう?
 狙いは若槻なのか、そうじゃないとしたら入れ替わっていることを知っているのか、あるいは────。

 背後から、細かな砂利混じりの靴音が聞こえた。
 ぞっとした。もう振り返れない。

 遠目にもようやく歩道橋が見えてくると、その上には街灯に照らされたふたつの人影がぼんやりと浮かび上がっているのが分かった。
 きっと、若槻と菅原くんだ。

(じゃあ……)

 後ろにいるのは、誰?

 縮み上がった心臓が早鐘を打つ。
 恐怖ですくむ足を懸命に動かしながら、一秒でも早く歩道橋へ着きたいと願った。

「……っ」

 靴音が近づく。迫る。

「た────」

 助けて、と叫ぼうとした声が詰まる。
 背中に何か硬いものを押し当てられたのが分かった。その瞬間、力が抜けて足から崩れ落ちる。

 目の前が真っ白になって、直後に意識ごと暗転した。