解せない、と言いたげに怪訝そうな面持ちで腕を組む。

「きみが涼介さんの妹なのは不変の事実なんだから、本心を明かすメリットがない。別にふたりの仲が進展したわけでもないしさ」

「……確かに」

 突然、強気に出た理由は何なのだろう?
 綾音の意図がまるで読めなくて眉をひそめる。

「まあ、それはともかくとして」

 若槻が腕をほどき、歩み寄ってくるなりこちらを見上げた。

「約束の期限は今日だけど、ちゃんと思い出してくれた?」

「それ、は……」

 気を抜いていた、というか気が抜けていたわたしの首根っこを唐突に掴まれた気がして心臓が跳ねた。
 答えに窮して俯いてしまう。
 その瞬間、ふっと呼吸が詰まった。

「……っ」

 吸い込もうとしても酸素を取り込めない。
 首に圧迫するような鈍い痛みを感じ、思わず手で押さえる。

 混乱しながら顔をもたげると、冷ややかにこちらを眺める“わたし”と目が合う。
 あろうことか、自身の首を両手で絞めていた。

「な……」

「出し抜こうとした罰、受けとく?」

 その口元が不敵に緩む。
 背中を恐怖が滑り落ちていき、さっと青ざめた。

「ま、待って……! お願い。謝るから。ごめん、昨日のことは本当に────」

 言い終わらないうちに力が抜けて、がくりと膝から崩れ落ちた。
 したたかに打ちつけたはずの膝の痛みは感じない。

 ガッ、と前髪を掴まれて無理やり上向かされる。
 怒りと呆れと侮蔑、ことごとく非難するような眼差しを突き刺された。

「そうじゃないだろ……?」

 ぞく、と寒気を帯びた肌が粟立つ。

「────最初から言ってるよね。僕の目的はただひとつ、きみに復讐することだ。ひと思いに殺してあげる」

「嫌だ……!」

「反省も何もない。覚えてもいない。……ふざけてるにもほどがある。結局、猶予を与えたのに思い出す努力もしないで、騙し討ちなんてしようとして。いまも昔も、きみは自分のことしか考えてない」

 ようやく現実感がリアルに追いついてきた。
 ずっと、わたしの首には死神の鎌があてがわれていたのに、その危うさを見落とし続けていた。
 そもそも真剣に向き合おうとしなかった時点で、危ういことに気づいてもいなかった。

 泣きつけばどうにかなる、だなんて全然そんなことはなかったのだ。
 若槻は本気だ。その度合いを甘く見ていたばっかりに、こうなるまで分からなかった。