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 部活に向かう子や方向の異なる子たちと別れ、ひとりで帰路についた。
 校門を潜ったとき、スカートのポケットでスマホが震える。

 取り出してみると、SNSのダイレクトメッセージが届いていた。

【ずっと見てるよ】

 たったひとこと記された文言に、ぞっと背筋が冷える。同時に肌の上を悪寒が這っていった。

「え……?」

 アカウントは知らないユーザーのもので、当然ながら交流はない。
 思わずあたりを見回すけれど、それらしい怪しげな人影も見当たらなかった。

(気持ち悪い……。いたずら?)

 不安感や不快感を覚えながらも、ひとまず無視を決め込んでスマホをしまう。

 そのとき、背後から不意にあの優しい声が聞こえてきた。

「あれ、茅野さん?」

 振り向いた先にいたのは若槻くんだ。
 目が合うなりその双眸(そうぼう)を穏やかに和らげ、わたしの元へ歩み寄ってくる。

「偶然だね。いまから帰り? よかったら一緒に帰らない?」

 意外なことに積極的で驚かされる。
 もしかすると、彼にとってもわたしという存在は満更でもない?

 本当に“チャンス”なのかもしれない。そう思ったわたしは快く笑い返した。

「うん、若槻くんがいいなら」

「当然。……ていうか、ごめん。馴れ馴れしくなかった?」

 並んで歩き出すなり肩をすくめた彼に「え?」と聞き返す。

「直接聞いたわけじゃないのにきみの名前知ってたりとか、いまの誘いとか……」

「そんなことないよ」

「本当? じゃあ、よかった」

 ほっと息をついて笑った。はにかむような横顔を見上げ、少し戸惑ってしまう。
 その表情の意味は、尋ねる前に自ら明かされた。

「……実は僕、ずっと気になってたんだ。茅野さんのこと」

 どき、と心臓が跳ねた。熱っぽいまっすぐな眼差しに吸い込まれそうになる。

「だから正直、今日のことはラッキーだったなって思ってる。話すきっかけになったから」

「若槻くん……」

 思わず呟いた瞬間、彼の瞳がきらめいた。

「僕の名前、知っててくれたんだね。それって……ちょっとは期待してもいいってことかな」

「!」

「なんてね」

 ふっと頬を緩める彼は、だけど冗談で済ませる気などさらさらないように見えた。
 緩やかに逸らされた視線が名残惜しそうだ。
 直感が勘違いなんかではないと、気づくには十分すぎる。