若槻も特に頓着することなく「それよりさ」と話題を移した。
「今日、バイトのシフトが入ってるからちゃんと行ってね」
「えっ、バイト? ……って、何の?」
「カフェ。場所送っとくよ。シフト表もあとで送る。帰りがてら向かえば間に合うよ。今日は18時までだからよろしくね」
バイトをしているなんて初耳だった。こともなげに言われるけれど、不安しかない。
彼のふりをして学校へ通うのとはわけがちがう。
勝手も何も分からないし、うまく振る舞うハードルがあまりにも高い。
そんなことを思いながら、言われるがままにメッセージアプリで連絡先を交換すると、すぐさま彼からそのバイト先だという住所が送られてきた。
「じゃあ……放課後、気をつけて」
意味ありげに微笑みを深める。
その裏に秘められた思惑が読めず、さらに不安が募った。
◇
「ここ……?」
たどり着いたのは小さな洋風の住宅然とした建物だった。
カフェと記された看板が出ていなければお店だと気づかないかもしれない。
(大丈夫かな)
仕事内容も雰囲気もまるで知らないどころかバイト経験すらないため、右も左も分からない。
色々な不安が駆け巡り、なかなか踏み出せないでいると、背後から声をかけられる。
「……先輩?」
「菅原くん! どうしてここに?」
戸惑うわたしに、彼は会釈しつつ歩み寄ってくる。
「若槻先輩から聞いてないですか? 俺もここでバイトしてるんですよ」
「そうなの!?」
驚くと同時に腑に落ちた。若槻の“気をつけて”という言葉と意味深な微笑みの理由。
わたしが菅原くんと結託していることを知らないから、ストーカーであり脅威であると信じているのだろう。
「あー、でも助かった。菅原くんがいるなら大丈夫だね」
「はい、シフトはほとんど俺と被ってるんで何も心配ないですよ。この時間帯は空いてるから作戦会議もできますし」
そう言う彼について店内へ入る。なんて心強いんだろう、と感動してしまいながら。
まさか、菅原くんを頼もしいと思う日が来るとは。
着替えてホールに出ても確かにお客さんの姿はなかった。
手馴れた様子で先導する彼に従って窓際の席へ向かうと、ふたりでテーブルを囲む。
「昨日聞きそびれたんで、改めて確認しときたいんですけど」
「……うん」
「入れ替わったときの状況とか、若槻先輩とどういう話になってるのかとか、よかったら俺にも教えてくれませんか?」