「入れ替わってるんですよね。先輩たち」

 もはや尋ねるというよりは確信めいた口調だった。
 この期に及んで否定しても、彼の結論を覆せるとは思えない。

「どうして、そのこと……」

「いままで、伊達に見守ってきたわけじゃないんで」

 表情も声色も変えずにそう言われると、真っ当なことを口にしていると騙されそうになるけれど、そもそもの前提を忘れたわけじゃなかった。

「……何かいい言い方してるけど、要はストーカーだったってことだよね?」

「まあ、否定はしません。本当に見守ってただけですけど」

 あくまでそう言い張られ、呆れてしまう。
 一般的にストーカーといえばもっと気弱で陰湿なイメージだったけれど、この堂々たる態度は何なのだろう。

「……でも、やっぱり。俺の目に狂いはなかった」

 ひとりごとのように呟かれた言葉。
 例によって淡々としているせいでさらりと聞き流しそうになったものの、そこに含まれている意味を考えずにはいられなかった。

「あの、自分で聞くのもなんだけど……。好きなの? わたしのこと」

 見かけがわたしでもあれは偽物だと、わたしではないと、気づけたことが嬉しくてついこぼれたひとこと────のように感じられた。

 自意識過剰だと思われても構わない。その点は確かめておきたいことだった。

「……じゃなきゃ、まずこうして会いにきませんから」

 盛大な勘違いならばむしろその方が後腐れがなくていい、とさえ思ったけれど、あっさりと砕かれる。
 あまりのストレートさに動揺した。頬に微熱が走るほど。

「で、でも! だからって普通、あそこまでする? 盗撮とか変なメッセージとか無言電話とか……」

 照れ隠しのように口走ると、菅原くんが不可解そうに「え?」と眉をひそめた。

「それ、俺じゃないですよ」



     ◇



 窓の外はすっかり墨色に染まっている。
 カーテンを閉めたわたしはベッドに寝転んだ。

 わたしじゃないにおい。だけど、自分のもの。
 何となく気を抜けないようなにおいにはまだ慣れないけれど、そのうちそんな些細なことは気にもとまらなくなるんだろう。

『それ、俺じゃないですよ』

 菅原くんの言葉が耳にこびりついて離れない。

 だったら、結局あれらは誰の仕業だったんだろう?
 若槻なのだろうか。それとも、わたしを嫌っているらしい乃愛の嫌がらせ?

 あのあと彼とも話して、ひとりになってからも繰り返し考えてみたけれど、どれも可能性の域を出なかった。