やきもちだとか、そんなかわいい言葉で流していいレベルの嫌悪なのだろうか。
(……知らなかったな)
彼女の本性も、わたしに対する悪評も。
実際にわたしは誰からも好かれていると信じていた。だからこそ“完璧”と言えるはずだったのに。
乃愛に気圧されながらも、肯定も否定もできずに曖昧な笑いを返しておく。
若槻たちに気づかれないよう注意しながら、会話の聞こえる位置まで寄った。
「次の休み、一緒に出かけません? 先輩、何が好きですか」
「うーん……フルーツ?」
どこか考えるような間があってから“わたし”が答える。完全なイメージだろう。
ちがうし、と思わず小声で呟く。
フルーツはアレルギーで食べられないし、物心ついてからは食べた記憶がない。
(まあ……どうでもいいけど、一応そのこと言っておかないと、知らずに食べたらまずいか)
いや、と思い直す。
わたしを害そうと目論んでいる若槻にそんな弱点を教えては、かえって危機に晒されかねない。
わたしの体質を知っている家族が食べさせることもないだろうし、不意に口にする可能性は低かった。
ひとまず、このまま黙っておくのが無難だ。
◇
「あぁ……疲れた」
帰宅するなりどさりとソファーに倒れ込む。わたしの家にあるそれよりも背が低めで少し硬い。
こんな調子で数日やり過ごし、若槻に指定された期日は、早くもあと2日後に迫っていた。
結局、彼とのことを思い出す糸口は掴めていないまま。
「もう、どうしたらいいの……」
ネクタイを緩めながらうなだれる。
元に戻れないなら、とにもかくにも過去を思い出さなければならない。
だけど、一日をやり過ごすので精一杯な上、いまのところ手がかりはゼロだった。
「そうだ」
ふと思いついて身体を起こす。
わたしが覚えていなくても、私怨を募らせていた彼は過去に囚われ続けてきたはず。
この家を探索すれば、何かヒントが見つかるかもしれない。
まず手始めにクローゼットを開けてみた。
手始めに、なんて言ってもここのほかにこれといった収納はなく、何か隠してあるとすればここだろうと目星をつけてのことだった。
わたしがこの家で生活するようになってからは初めて開ける。少しどきどきした。
いるのはたいてい制服と部屋着くらいだし、ほかの着替えが必要になってもそのあたりに出ているからだ。
ハンガーパイプにかけられ整然と並ぶ服。
その下にはチェストとダンボールがふた箱置いてあった。
チェストの上にあるものを見つけ、自然と手が伸びる。
「卒業アルバム……」
小学校のものと中学校のもの、それぞれが重ねてあった。確かにどちらもわたしの出身校と同じだ。
つい最近にも手に取っていたらしく、埃を被っている様子もない。
触れたはいいものの、つい動きが止まる。
記憶からもほとんど追い出した過去を目の当たりにするには、まだあまりに中途半端な覚悟しかなくて躊躇ってしまう。
(でも、逃げてる場合じゃないよね……)
どうにか腹を括って、わたしは慎重に小学校の方のアルバムをめくってみた。