そう言った途端、元の空気が戻ってくる。
わたしが少しも動じなかったことにほっとしたように、ほかの面々がとりなすべく笑った。
「そうだよ、綾音ってばなに言ってんの。自分が円花に遠く及ばないからって嫉妬はよくないよ」
「いや、そういうことじゃなくってさ……」
「素直に認めた方がいいよー、円花のすごさを。たぶん生まれた瞬間からこうだから」
笑い声に包まれると、綾音もさすがに反論を諦めたのか目を伏せて口を噤んだ。
その様子を見て内心眉をひそめる。
(何なの?)
いったいどういうつもりなんだろう。
時折繰り出されるこういう発言の意図が分からない。
本当はわたしのことが嫌いで貶めたいのだろうか。それこそ嫉妬や何かが理由で。
だとしたら、どうして一緒にいるのだろう。
いずれにしても、周りはみんなわたしの味方だ。もともとは孤立していた綾音に足をすくわれることはない。
「…………」
けれど、それとは関係ない部分でつい苦い気持ちになってしまった。
本当のわたしは、そして昔のわたしは、決して“完璧”なんかではなかったから。
────小、中学校時代はいまのような人気も人望もまるでなかった。
幼稚でわがままで世界の中心を生きていたわたしは、いわゆるクラスの女王のような絶対的存在だった。
いつだって周囲は思い通りになったけれど、本当の意味での友だちはひとりとしていなかった。
そのことに気づかされたのは卒業式の日。
わたしの元には1枚の写真も残っていない。
本来のわたしは弱くて、とても弱くて、だけどその弱さを悟られたくなくて、自分でも見たくなくて、いつも必死に強がっていた。
“強さ”の意味を履き違えて、他人に高圧的に接することで自分の存在を認めさせようとしていた。
だからこそ失敗したんだ。
そうして、わたしは生まれ変わることにした。
恐怖ではなく人柄をもってして輪の中心にいたい。好かれたい。必要とされたい。
そんな完璧な人生を送るために、猫を被って完全無欠の人気者を演じている。
いまのわたしは幸せだ。何もかもが満たされている。
何事も手を抜けないから少し疲れるけれど、そうしてこそ自分の価値を知れる────。
「!」
どん、と誰かと肩がぶつかった。
不意の衝撃にたたらを踏んでしまうと、さっと背中を支えられる。
「……っと、ごめん。大丈夫?」