『未来のミク。女の子に出会ったよ。また会えるかな』
今までずっと、人の名前なんて出てこなかったのに、突然自分の名前が書かれていて、目を見開いた。
『未来のミク』
そう自己紹介したのは、たしか初めてハルカと出会った日のことだった。
『ミクとたこ焼き半分こ』
『ミクとシウンテン。自転車すいすい』
『ミクと夜空を冒険』
増えていく私の名前に、鼓動が速まっていく。
ハルカは私と過ごしたなんでもない日常を、『幸せ貯金』に貯めていてくれた。
そう思うと、ひどくむずがゆい気分がして、頬が熱くなった。
開けた紙を元に戻し、瓶になおしていく。
「あれ……ミクがいる」
少しかすれた声が聞こえて、慌てて振り返る。
ベッドの上に座って、ぼんやりと私を見ていたハルカ。いつも、出窓に腰掛けているときの表情だった。
ぼんやりと宙を眺めたハルカは、しばらくしてハッと我に返ったように目を見開き身を乗り出す。
「おれ、どのくらい寝た?」
「……一週間くらい、寝てた」
途端、「そっか」と小さく零し抱えた膝に顔を埋めたハルカ。
いつものハルカの声ではない。湿っぽくて少し震えていた。私は離れたところから、その姿を見ていた。
「ねぇ。アメリカ、引っ越すの?」
縮こまるハルカの肩が震えた。
「……なんで」
「おばさんに。さっきまでお茶してたから」
「……隠してたわけじゃないよ」
「でも黙ってた。黙っていくつもりだったんでしょ。薄情もの」
「ちがうよ」