立ち上がって部屋を見回した。

ハルカの部屋は、他の部屋とは違って無駄なものや置物が一切ない質素な部屋だった。ベッドと反対側の壁にある天井までつく大きな本棚には所狭しと本が並べられていて、その隣には洋服箪笥らしきもの。

後は木製の勉強机だけ。その勉強机の上でさえペン立てや教科書も一切なく、たった一つ、四つ折りの色紙がたくさん集めてある透明の瓶だけが置かれていた。私は静かに机に歩み寄る。

その瓶を手に取り軽くゆする。開けた蓋を机の上に置いて、瓶に手を突っ込んだ。

手に触れたメモを一つだけ適当に引っ張り出し、開ける。

『隣の家のぽん太、頭をなでなでさせてくれた。(いつもは噛まれる)』

今度は数枚取り出して、広げてみた。

『花壇のチューリップの芽がでたよ。何色かな』
『晩ごはん、唐揚げだった』
『面白い本を見つけた』

そこには、ハルカの何気ない日常が綴られていて、それがハルカの『幸せ貯金』なのだと、すぐに気が付くことができた。幸せ貯金だけれど、まるでハルカの日記をこっそり見ているみたいでなんだか罪悪感があったが、結局誘惑に負けてしまい、また新たに紙を取り出す。

どの紙にも、靴下をはいているような猫を見たとか、新しい消しゴムを買ったとか、そんな本当に小さな出来事が記されてるい。


「ハルカの幸せって、ほんと安上がり」


小さな声で呟いて、そしてまた新しい紙を広げて内容を読む。