踏みしめる度にキシキシと音をゆっくりと進む。

壁には風景が描かれた油絵が飾られ、花瓶には花が生けられているのに、なんだか寂しげな雰囲気がした。

廊下の端にたどり着いた。右と左両側に全く同じ扉がある。

最悪だ、と顔を顰め何度も扉を見比べる。

最後は勘で右の扉の金属製のドアノブをゆっくりと下に押して、音を立てないように少しずつドアを開けた。

目に飛び込んできたのは狭い個室でもなく便座でもなく、大きなベッドだった。

慌てて閉めようとしてふとよく知っている匂いがした気がして手を止めた。もう一度ほんの少しだけドアを押した。

一番に目に入ったベッドの上のふくらみ。そのふくらみがゆっくりと上下しているのが分かる。ばくん、と心臓が大きく音を立てた。無駄な足音を立てないように慎重にベッドへ近づく。

いつの間にか息さえひそめていた。そっと布団を覗き込む。


「……あ」


布団に包まって、スースーと寝息を立てるのはハルカだった。

まさかハルカの部屋だったなんて。

寝顔を覗き込むのは悪い気がして、早く立ち去ろうと背を向ける。寝息が遠くなって聞こえなくなる。

ドアの前で立ち止まった私は、ユーターンしてベッドサイドに戻った。

側に膝を付き、寝顔をじっと見つめる。寝息が聞こえる。お腹の布団もちゃんと上下している。それを確認してほっと息を吐いた。

本当に私たちが夜眠りにつくように、ハルカも目を閉じ眠っている。眠っているのだから仕方がないのだけれど、いつもみたいに呑気に弧を描く目も口もなくて何だか落ち着かない。


「……さっさと起きなよ」


小さくそう呟けば、なんだか無性に泣きたくなって両頬を叩いた。