えっと、つまり、だから。

頭の中では十分に理解できているはずなのに、そんな言葉を繰り返した。

あまりにも唐突であまりにも予想外で、そう簡単には受け入れることができない話だった。

ハルカが、引っ越す? アメリカに……?


「ごめんなさい、あの子が伝えないでいたのね。急な話でびっくりしたでしょう」

「あ……えっと」

「未来ちゃんとお別れするのが寂しくて言えなかったのね。勝手に未来ちゃんに伝えちゃって、遥にも申し訳ないことをしてしまったわ」


肩を落としたおばさんはティーポットの蓋を開けて中を覗くと「入れ直してくれわね」と立ち上がる。


「ちょっと待っててね。お手洗いは廊下の一番奥だから、行きたかったら使ってね」


トレーをもって部屋から出ていくおばさん背中を見つめる。パタンと扉が閉まっても、しばらく身動きの取り方を忘れたみたいに固まっていた。

ハルカが引っ越し、しかもアメリカに。

アメリカって、日本からどれくらい離れているんだろ。地理の授業で作った世界地図を思い出す。大きな太平洋を挟んで地図の右端にある国だ。多分飛行機で何時間も空を飛ばないと辿り着けない。

同じ空を飛ぶ方法だったとしても、ネバーランドみたいに簡単にヒョイと行ける距離じゃないはずだ。