そんな事を考えていると、突然ハルカの家の鍵がガチャリと開く音がした。

慌てて立ち去ろうと自転車のスタンドを蹴るも、バランスを崩して倒れてしまう。

もたもたしている間にドアが開いた。恐る恐る振り返ると、ジョウロを手に玄関アプローチを歩く女性とばっちり目が合ってしまう。


「あら、あなた確か本庄さんよね?」


前に道端で眠ってしまったハルカを送り届けた際、苗字だけは名乗っていた。ハルカのお母さんは私の事を覚えていてくれたらしい。


「こんにちは。学校帰り?」

「あ、はい……」

「毎日偉いわねぇ」


目尻を下げてふにゃりと笑う。笑い方がハルカとそっくりだった。

小さく頭を下げて、立ち去ろうとしたその時。


「もしかして、あなたがミクちゃん?」


その問いかけに、動きを止めた。

どうして私の名前がわかったんだろう?

ハルカのお母さんは私の胸元を指差す。いつもは下校する前に外して机の中に置いてくるはずだった名札を今日はつけたままだった。

あれ、でも名札には「本庄未来」としか書かれていない。いつもふりがなを振っていなければ絶対に「ミライ」って呼ばれるのに、どうしてミクだってわかったんだろう。

ハルカのお母さんは手にしていたジョウロを花壇に置いて、小走りで近付いてくる。

門のカギを外すと私の前に立ち、私と視線を合わすように屈んだ。