自転車を漕ぐ。帰り道を急ぐいつもとは違って、その背中を探すために。
────見つけた。
「ハルカ!」
今日もあたりをキョロキョロと見回す後頭部に向かって叫ぶ。
「ミク? よかった、おれまた迷っちゃって」
いつもと何一つ同じ眉尻を下げた困った顔で振り向いたハルカになんだか嬉しくなる。
「また? 仕方ないな」
最初からそのつもりだったのに、わざと面倒臭そうな態度を取った。
「お願い、うちまで乗せてって」
顔の前で手を合わせる姿に小さく笑う。
「早く乗って」
「やった。ありがと」
今日も荷台がゆっくりと沈む。馴染んだ重さを乗せて、自転車は前へ進んだ。
ハルカはいつも通りヘタクソな鼻歌を歌いながら変な形の雲を見つけては報告してくる。だから私もいつも通り適当に流した。
ハルカの家が近づいてきて、会話が一瞬途切れたタイミングで「ちゃんと話したよ」とだけ早口で伝えた。ドキドキと胸がうるさい。ただ報告するだけなのに。
「そっかぁ」
ハルカはいつも通りの気の抜けた声で相槌を打つ。
深くは聞いてこないつもりらしい。私にはそれくらいがちょうどよかった。