「一緒に、歩いてほしい。おいていかないで」
最後にそう言ってテーブルの木目に視線を落とす。白くて細い手がきつく握られた私の拳に添えられた。
「当たり前じゃない。未来一人を残して先に行くことなんてないわ。進む時はいつだって一緒よ」
柔らかい指が乾いた頬の涙の跡を優しく撫でた。
「僕も、その手を取ってもいいのかな……?」
高木さんが不安そうに私の顔を覗き込む。小さく頷けば、大きくてがっしりした手にすっぽりと覆い隠された。
二人に手を握られたその瞬間、深い沼から一気に引き上げられたような感覚がして、胸の詰まりがはじけた。肺の隅々まで行き渡る暖かい空気に、胸がいっぱいになる。
ああ、そうか。そうだったんだ。これだけだったんだ。
これだけで、こんなにも簡単に息はしやすくなるんだ。
走るのをやめただけで、急ぐのをやめただけで、誰かと一緒に歩き出しただけで、こんなにも世界は変わって見えるんだ。
二人の涙が星のようにキラキラと光って溢れた。
ポケットにはハルカからもらった「黒ねこ」の幸せ貯金が入っている。
ねぇハルカ。ハルカの言った通り、ちょっとだけ世界が光ったよ。
そのことを今すぐにハルカに大声で伝えたかった。