空に浮かぶ星の粒がさっきよりも増えたように思え、いつの間にかあれほど苦しかった喉の圧迫感は無くなっていた。


「今ミクがすごく苦しいのは、ミクが逃げないで頑張ろうとしているからだよ」


目を見開く。両頬をパチンと手で挟まれたような、そんな気がした。


「ねえ、ミク。ちゃんと見てあげれば、いっぱい良い所が見つかるんだ。世界はミクが思うより、ずっとずっと綺麗だよ」


同じように空を仰いでいたハルカは、呟くようにそう言った。

よしじゃあ帰ろう、と振り返ったハルカは私に手を差しだした。

たいして大きくない男らしさの欠けた、私とは違う柔らかい手。普段ならすぐに振り払うようなその手を、今日は素直に受け入れることができた。


「十二時までに帰らなきゃ、フェアリーゴッドマザーの魔法が解けちゃう。それにお母さんたち、心配してるよきっと」

「……怒られるのやだ」

「一緒に怒られてあげるよ」


気の抜けた顔でそう言うハルカに「頼りないな」と笑った。

手を引かれて、引っ張られるように歩き出した。


「ね、ミク。さっきの好きなものしりとりの続き。“か”で終わったからだから、“河原で見上げる夜空”」

「ねえ、ハルカ」


帰り道、足元の石を蹴りながらその名を呼ぶ。ハルカは前を向いたまま、なあに、と首を傾げた。


「私、好きなものしりとり、できない。好きなものとか、全然見つかんないんだもん」