「ミクはさ、よく“別に”って言うけど、その先にどんなことを思ってる? ミクは“別に”どうしたい?」


別に。別に私は。


「別に────よくない。全然よくない。嫌だ。待ってほしい。先に行かないで、一緒に歩いてほしい」


本当はもうずっと前から、そう思っていた。

置いていかないで、先に行かないで。変わらないで、そのままでいて。

私は心の奥ではずっとそう叫んでいた。二の腕から少しだけ目を出した。

ハルカはふにゃりと微笑んで首を傾げる。


「おれに言えたんだから、お母さんにもちゃんとその気持ち伝えられるよね?」

「でも、そしたらお母さんが」


そんなことを伝えたらお母さんは一生幸せになれないかもしれない。

私のせいでお母さんがずっと苦しい思いをするかもしれない。そんなのは嫌だ。


「勇者はさ、たくさんのモンスターを倒して人助けのクエストをこなしてから、魔王に挑むでしょ? 最初から全力疾走で魔王城を目指さないよね」


ハルカがそばに転がっていた木の枝を勇者の剣のように天に掲げて笑った。


「だからミクも少し止まってもいいし回り道をしてもいいんだよ。進んでいればいつか必ずどこかにはたどり着くんだから」

「でも、回り道したことで、別のところに辿り着いちゃうかもしれないじゃん。そこが間違った場所かもしれないじゃん」


遅れた分だけゴールから遠いところに着いてしまうかもしれない。そうなった時の方が私は怖い。