ハルカが私の膝の上に千切れた紙切れを置いた。

指でつまんで目を細め月に透かす。


「……黒猫が横切るのは縁起が悪い事なんですけど」

「ありゃりゃ。でも、まあいいじゃん。にゃんこ君は可愛かったし」


のほほんと笑ったハルカ、続けざまに「ミクは、今日何かいいことあった?」と聞いてくる。膝に顎を乗せて暫く黙り込み、小さな声で答えた。


「……誕生日探し、楽しかった。唐揚げ、もらえた」

「唐揚げ嬉しかったよね。幸せいっぱいお腹もいっぱい」


ハルカは紙に『おばちゃんに唐揚げもらった』と書き込む。


「……ねえ、私の好きな色、黄色なんですけど。なんで鉛筆で書いてんのよ」

「だって、今はこれしかないし」

「好きな色のペンで好きな色の紙に書くって言ったのは、どこのどいつよ」


そう抗議すると、「わがまま言わないの」と私を窘める。頬を膨らますハルカを無視して、膝に顔を埋めた。


「お母さんがね、再婚するかもしれないの」


すんなりと言葉が出てきて、ハルカは「うん」と頷く。


「お父さんが死んで四年経ったの。私もね、一応心の整理はついたんだ」

「うん」

「でもさ、整理はできてもさ、追いつくのは精一杯なの。お父さんのいない毎日が始まって、お母さんと二人きりの日々が過ぎていって、これまで当たり前だった景色がどんどん変わっていくの」

「うん」


ハルカが私の手をぎゅっと握った。縋るようにその手を握り返す。