ハルカにこんなことを言っても仕方がない。ただの最低な八つ当たりだ。でもこのコントロール不能の感情をどうすればいいのかわからない。そんな自分が一番大嫌いだ。
ハルカは何も言わなかった。
怒ったのかな、と鼻を啜る。自分がそうなるようにしたくせに沈黙が気まずい。
その時、突然そばでべリと何か紙のようなものが破れる音がする。
顔を上げると風が目元にしみてヒリヒリし、顔を顰める。ハルカの手元を見やると小さなメモ帳を広げていた。
ハルカはズボンのポッケから小指サイズの小さな鉛筆を取り出してメモにすらすらと何かを書き込み始める。
「よし」
満足げに呟くと、小さな紙を私に見えるように広げる。
「『黒いネコがおれの前を歩いてた。可愛かった。』」
自慢げな顔で、その紙に書かれた内容を読み上げるハルカを怪訝な顔で見る。「……何それ」と、低い声で尋ねるとハルカは微笑んだ。
「幸せ貯金って言うんだよ。汚くて、面倒くさくて、クソ喰らえって思うくらい阿保らしい世の中はもうどうにもできないけど、その中でたった一つだけでもいいから良い事や綺麗なもの、素敵なものや面白い事を見つけるんだ」
「幸せ、貯金」
「うん。それをね、好きな色のペンで好きな色の紙に書いて瓶に集めていく。辛くなったときは、ひとつ取り出して読んでみる。するとね、ちょびーっとだけ、世界がキラッて光って、心がふんわり弾むんだよ」