「何やってんの!?」

「だってもう門限は過ぎてるから、玄関から出たらお母さんに怒られちゃうんだもん」


へへへ、と気の抜けた笑い方をしたハルカはお尻の汚れをたたきながら私に歩み寄る。


「ね、いいでしょ。冒険に行こう。それで、ミクが大きく息を吸えるところを探しに行こう」


その一言にハッとした。


ハルカが荷台に跨り、背中にハルカの熱が触れる。


「ドラゴンが住む谷でも、意地悪な魔女のいる森でも、星が降る湖でも。どこでもいいよ。ミクの大好きなところ、ミクが笑えるところにいこう。ミクが好きな場所は、きっとおれも好きだから」


目頭が熱くなった。

それと一緒にかじかんだ手をストーブにかざした時みたいに胸もじんわり熱くなる。

泣くもんか、泣くもんか。

そう唱えてはみたけれどやはり視界は歪んでいって、そして最後は手の甲にぽたりぽたりと落ちていた。


「着くまでは、好きなものしりとりをしようよ」


私に少しだけ体重を預けてきたハルカ。いつもは「重い」と一蹴するその重さが、今日はなんだか嬉しくて、背中越しの体温にもっと涙が溢れそうになった。

止まっていた足を動かし始める。

ふたりを乗せた自転車はずっと重いはずなのに、ひとりで乗ったさっきよりか軽いような気がした。