強張った顔でペダルを踏みしめる。けれど前に進むほど、喉の奥が熱くなった。

グリップを握りしめる手は驚くほど白く、その白い手ももうぼやけて見えた。自転車を漕ぐ足は次第に動かなくなっていき、そして遂に地面に足を付いた。

地面に落ちている項垂れる影をぼんやりと見つめていたその時。


「あれ、ミク?」


聞きなれた優しい声が耳に届いた。頭上から聞こえたその声を探すように顔をあげる。


「誕生日探し、何か忘れてたの?」


揺れるカーテンの奥の出窓に腰掛け、私を見下ろす。


「……ハルカ」


名前を呼ぶ声が掠れた。


「ミク? どうしたの?」

「……助けて」


絞り出した声が震える。


「息ができない、もう嫌だ、苦しい」


もうなにも見たくない。なにもしたくない。こんな世界なんて、勝手に消えてなくなればいい。

自転車のフレームをぼんやりと見つめる。「ねえ、ミク」と、ハルカが私の名前を呼んだ。


「ねぇ、ミク。おれと冒険に行かない?」


顔を上げると同時に、ハルカがカーテンを窓の外に放り出した。ドラゴンが羽を広げて飛び立つような音がしたかと思うと、ハルカが出窓に立ってそのカーテンにしがみつく。そして「よっ」と声を上げて出窓から飛び降りた。

一瞬何もかも忘れて悲鳴を上げた。

案の定着地に失敗したハルカはころんと一回転して尻餅をつく。