「今日が未来の誕生日なんだって話したら、高木さんが未来にケーキを買ってくれたのよ。ほら、最近テレビでやってた有名なお店の」
「誕生日探し、だっけ? これで全部揃ったかな?」
“高木さん”がおしゃれな紙袋を私に差し出した。
「ほら未来、お礼言って」
お母さんが笑顔でそう言う。
次の瞬間、その笑顔がまるで魔女の魔法で泥人間にされたみたいにドロリと崩れたような気がした。
未来なに黙ってるのよお礼言いなさい、いいよいいよそんなの、駄目よこういうのはちゃんとしなきゃ、気にしないでそれよりも急に押しかけてごめんね未来ちゃん。
目の前のやりとりがテレビの奥のずっと遠いところで繰り広げられているように感じる。
心臓が大きくゆっくりと脈を打つ音がやけにクリアに聞こえる。ハッと息を吸った。プールで息継ぎをする瞬間みたいにわずかな量しか肺に入ってこない。首を絞められているように、どんどん息苦しくなっていく。
わずかに繋がっていた糸がプチンとちぎれるような音がして、その瞬間二人を押し退け玄関を飛び出した。
マンションの階段を駆け下り駐輪場に止めてある自転車のスタンドを蹴った途端、目頭がぶわっと熱くなった。
喉の奥がきゅうっと閉まって、自転車のハンドルを握りしめる両手が小刻みに震える。誤魔化すようにきつく拳を握ってグリップをドンと叩いた。