ため息を吐いたその時、一等大きな家の前に差し掛かる。
我が家の数十倍は豪華な家の開け放たれた出窓を見上げた。出窓のあるところだけぽこっと膨らんでいて、囚われのお姫さまが小鳥に挨拶をしながら歌っていそうな塔だった。
ふわりと揺れるレースの白いカーテン越しに見えた人の影。少し強めの風が吹くとばさりと大きな音を立てカーテンが捲れた。
出窓に腰掛け、目を閉じる男の子がいる。
日に照らされた肌は透き通るように白く、プードルの毛並みみたいなこげ茶色の髪が風に柔らかく揺れていた。
その子は手に持っていた文庫本の背表紙をするりと撫でた。そしてふっと目が開く。
瞬間、たぶん目があった。
その子が少し驚いたように目を丸くしたからだ。そして気が抜けたようなふにゃりと頬を緩めて、私に微笑んだ。
慌てて視線を反らし前を向いた。少し早く波打つ鼓動はきっと自転車を早く漕ぎすぎたせいだ。
「……金持ちは優雅な朝が送れていいですね」
なんて恨みがましく呟くと、サドルに深く座り直した。