次の日、夜中の二時まで小説を読んで夜ふかししていた私は昼過ぎに起きて、お母さんが作り置きしてくれていた親子丼を食べた。

のんびりと身支度を整えて、トートバックに画用紙と色鉛筆を詰め込むと家を出た。


昼過ぎの心地よい風を感じながら自転車を走らせていると、ここ数日ずっと閉めっぱなしだった出窓が開け放たれているのが見えた。
はためくカーテンの奥に人影が見える。少し頬が緩んで、サドルから腰を浮かせた。


「ハルカ!」


名前を呼べば、眠たげに目を細めてぼんやりと遠くを見つめていたその目に光が宿る。やがて焦点があって、その目は嬉しそうに弧を描いた。


「ミク、おはよ」

「おはよ。寝起き?」


きき、とブレーキをかけて出窓の下に自転車を停める。


「うん。さっき起きた」


ハルカがふわぁとあくびをこぼす。まだ少し眠いらしい。


「私これから河川敷行くけど、うしろ乗る?」

「いいの?」

「よくなかったら聞かないっての」


ハルカはパッと顔を綻ばせると「ちょっと待ってて」と腰を浮かせる。開け放たれた窓から中でドタバタしているのが聞こえる。思わずぷっと吹き出した。

いつも通りハルカを後ろに乗せて、河川敷へ向かった。家から十五分ほど離れた場所に広い川が流れていて、堤防はちょうどよく芝が茂っている。そこに腰を下ろすとトートバックから画用紙と色鉛筆を取り出した。


「ミク、今日は絵を描くの?」

「いや」


答えながら画用紙の右上の角に「出発地点」と書いてまるで囲む。


「出発地点? どういうこと?」

「地図だから」

「ミクは地図を作ってるの?」

「特別な地図ね。宝の地図」