「ごめんね、ミク。でもお昼頃には帰ってくるから」
「分かってるから。もう行かなきゃいけないんでしょ?」
「戸締まりしっかりね。夜ふかししちゃダメだから。何かあったらお母さんの携帯に連絡してね。ご飯は冷蔵庫のタッパーをチンして……」
「はいはいはい! 行ってらっしゃい!」
長くなりそうな気配がしたので、急いでその背中を押して半強制的にお母さんを送り出す。
ドアが閉まるまで申し訳なさそうな顔をしたお母さんに呆れながら、さっさと鍵を閉めた。
お母さんは今日から二泊三日の出張だ。
土曜日に地方で開催される展覧会に参加するメンバーに一人欠員が出て、急遽お母さんが代理で向かうことになったのだとか。金曜日と土曜日は現地で宿泊し、日曜日に片付けが終わり次第帰ってくるらしい。
お母さんが出張で家を留守にするのはこれまでも何度かあったので、私だって慣れている。むしろお母さんのいない数日間、のびのびと羽を伸ばせてかなりいい。
何よりも「緊急時のために」とお母さんはクレジットカードを置いていく。暗証番号はばっちり知っているので、クレジットカードが使いたい放題というわけだ。もちろん常識の範疇でだけど。
お母さんは出張の時いつも申し訳なそうにして出かけていくけれど、今回はいつも以上だった。
帰ってくる三日目が私の誕生日だからだろう。「帰ってきたら誕生日会しようね」としつこいくらいに繰り返していた。
一つのびをして、いつもより広々とした部屋を見回す。
「私も学校行くか」と呟いた。