言葉に詰まって振り返らなかった。ハルカが私の背中を見ている気がする。


「……どうだろうね」


そんな昔のことは忘れてしまった。


「小さい頃に見てた世界は、今私が見てる世界とは別物なんだよ。あの頃に何かが見えてたんだとしたら、それは私が勝手に作り出した妄想」


そうじゃなきゃ、今私が見ているこの世界の説明がつかない。こんなにも汚くて、面倒臭くて、クソ食らえって思うほどアホらしい世界。

息が詰まって、苦しくて、悲しい世界。

背表紙をグッと押し込む。

ゆっくり振り返るとハルカは「うーん」と腕を組んで首を捻った。


「そっか。ミクはそう思ってるのか。でも、おれはそうは思わないけどなぁ」


ハルカは大きく伸びをして「いこっか」と首を傾げる。一つ頷いてゆっくりと歩き出した。

ハルカにはこの世界がどういうふうに見えているんだろう。