目をパチパチさせたハルカ。次の瞬間こぼれ落ちそうなほど目を見開いて身を乗り出した。
「本当なの!?」
キラキラした目が間近にあって、思わず仰反る。
「……こんな嘘つかないし。それ書いたの、私のお父さんだから」
「ミクのお父さん!?」
おっほん、と近くにいた図書館のスタッフが私たちをジロリと睨んで大きく咳払いする。ハルカは「ごめんなさい」と肩をすくめてその人に頭を下げた。
そして勢いよく振り返ると、さっきよりも小さい声で「ミクのお父さんが書いたお話なの?」と聞いてくる。
うん、と一つ頷いて本棚の前に腰を下ろした。
これは私が十歳の誕生日合わせてお父さんが書いた小説だ。お父さんは児童文学を書く小説家だ。
「おれ、昔サイン会に行ったことあるよ。すごく優しくて温かい人だった。大好きな作家さんだったんだ」
だった、と言ったハルカに本当にお父さんのことを好きでいてくれたんだなと実感する。
大好きだった、過去形にしたのはハルカがお父さんの今を知っているということ。それほどちゃんと好きだったと言うことだ。
────ハルカはお父さんが四年前に亡くなったのを知っている。
もう四年前の話だしお父さんのことを思い出して悲しくなることはないけれど、ハルカは少し気を遣うように静かになった。
「それにしても、ミクは小さい頃ってこんな女の子だったんだね」
「ちょ、変な勘ぐりやめて!」
「おとぎ話と空想が大好きな女の子かぁ」
「うるさい!」
ハルカから本を奪い取って本棚に戻した。
ふふふ、と楽しそうに笑う声が背中越しに聞こえてくる。
背表紙を睨みながら唇を突き出した。
「ミクにも、ちゃんとキラキラしたものは見えてたんだね」