「迷子が特技のくせに、勝手にふらふら歩くな!」


ある日の日曜日。

図書館に向かう途中でハルカを拾った私は、来た道を戻って送り届けるのが面倒でハルカも一緒に図書館へ連れていくことにした。

借りた本を返して新しい本を借りて、とほんの少しの間ハルカから目を離していたらいつの間にか消えていて、探し回ってやっと見つけたのは児童書のコーナーだった。

図書館なので声量を控えめにして、代わりに脳天に手刀をくれてやる。

「いてっ」と嬉しそうに声を上げたハルカに顔を顰める。へへと肩をすくめながら後頭部をさするハルカが抱えていた本の表紙が見えて少しだけ目を瞠る。


「その本……」

「あっ、気になる? この本すごく面白いんだよ。おれ全巻持ってるんだけど、本屋さんとか図書館で見つけるとつい手に取っちゃうんだ」

「……へぇ」


表紙を撫でたハルカは、表紙にもなっている主人公の女の子を指差して物語を誦じ始めた。

十歳のミライという名前の女の子が、水溜りの中に落ちて別世界に入り込んでしまいそこで大冒険をするお話なんだとか。


「でねでね、そこで出てくるでんでん女王が」

「まいまい女王でしょ。孤児院の先生がでんでん先生だし。一番需要なところじゃん」


思わずそう突っ込んでしまってハルカが驚いた顔をする。


「ミク、知ってたの? なんだ、だったらそうと先に言ってよ」

「別に……」

「この主人公のミライちゃんって、ちょっとミクに似てるよね。名前だって、ミクは未来って書いてミクでしょ? すごい偶然だね」


目を輝かせたハルカに一瞬言うかどうかを迷って、ゆっくりと口を開いた。


「……それ、私だし」

「え?」

「その主人公のモデル……私」