「ついていくために沢山走っているから、いつも少し苦しそうな顔をしていたんだね」
ふと思い出した。
ハルカは私に会うたびに「急いでたのにごめんね」「急いでたんだよね?」と聞いてきた。
ただ単に私に気を遣ってそう言っていたのだと思っていたから気に留めていなかったけど、ハルカには私がそんな風に映っていたんだ。
「ミクは頑張り屋さんなんだね」
そんな風に褒められたのはもう何十年ぶりとかそれくらいで、咄嗟の反応に困った。
「でもさ、そんなに頑張って追いつかなくてもいいんじゃないかな。少し止まっても、いいと思うよ」
なにそれ、まるで他人事みたいに。そうできるならとっくにそうしてるし、できないから今こんなに苦しいんじゃない。
苛立ちがざらりと胸を撫でる。
「だっておれは歩いてすらないし」
とん、と胸を叩いたハルカに、苛立ちがフウセンカズラを潰す時みたいにプシュウと抜けた。
「……自分で言うんだ」
「おれにしかできないトークでしょ」
ふふんと鼻を鳴らしたハルカは立ち上がって屋根の下から飛び出す。
影から飛び出したその瞬間、太陽に照らされて妖精が来ているワンピースのような黄金色の薄い衣を身体中に纏う。
「いい天気だね。よく晴れてる」
ハルカは楽しそうにその場をくるりと回った。
確かに空は新しい水色のクレヨンを使った時のように鮮やかな色でよく晴れている。