そうか。

ハルカはきっと、この世界の綺麗な部分だけを見て生きていけるんだ。

汚い部分も都合の悪い部分も、面倒臭い部分も何もかも、眠っている間に過ぎ去って残ったものだけを見ているんだ。

だから辛い状況でも、そんなふうにワクワクできるんだ。


「……ハルカが、羨ましい」


絶対に言ってはいけないと分かっていたから心の中で呟いたつもりなのに、その言葉は喉を震わせてはっきりと言葉になる。

ハッと我に返って「今のなし」と言おうとしたけれど間に合わなかった。


「羨ましい? どうして?」


ハルカは怒った風でもなく、純粋に疑問を抱いたように不思議そうな顔で聞き返した。

膝の上の拳に目を落とす。

だって私は。私は。


「私は、世界が変わっていくのをそんな風に楽しめない。変わっていくことについていくので必死で、大変で」


どれだけ願っても毎日はどんどん姿形を変えて先に進んでいく。次々私に迫ってきては、嵐のように過ぎ去っていく。

追いついて受け入れて先に進んで、その繰り返し。


「なるほど。やっと謎が解けた」


思わぬ返答に顔を上げた。

まるで童話の主人公みたいなそぶりで拳を掌に叩きつけて何かを閃いた仕草をしたハルカ。


「だからミクは、いつも急いでる顔をしていたんだね」


胸の真ん中をトンと叩かれたような気がした。

目を見開いてハルカを見つめる。