「嬉しい。ありがとう。おれ、ミクと自転車に乗るのが大好きなんだ」


純粋な言葉が眩しくて堪らず目を伏せた。

魔王を倒した勇者一向が街に凱旋する時の日のような晴れ渡る空のように眩しい。

ハルカは私と違って病気を抱えていて苦労していて、それなのにどうしてこんな顔で笑えるんだろう。

好きなものを好きだと言えて、面白いものや綺麗なものも見つけられて、毎日をそんなふうに楽しめるんだろう。

どうして私とはこんなに違うんだろう。ハルカはどんなふうに見えているんだろう。


「一ヶ月眠り続けるのって、どんな気分なの?」


無意識に口にしたその言葉に、後になってまた「まずった」と思った。だって「病気になって今どんな気分?」と聞いているのと同じだから。そんなの、答えは決まっているはずなのに。

目を瞬かせたハルカ。そして天を仰ぐと「そうだなぁ」と呟く。


「目が覚めた時、植えたばかりだった種が花を咲かせて、冷たかった風が暖かくなっていて、街の匂いが変わっていて。見たかった映画が公開されていて、新しいお店ができていて、道ができていて。起きて一番に窓から世界を見下ろすたびに、新しくなった景色にすっごくワクワクするんだ」


女神がふうっと吹いた息のような爽やかな風が私たちの間を吹き抜けた。