信号が青になって、ハルカが駆け寄ってきた。
「……何よ。お礼も言いにこないような失礼な奴と喋るつもりないから」
ふん、と鼻を鳴らせばハルカはキュッと唇を窄めて手を下げた。
何よ、そのくらいで諦めるなら最初から話しかけてくんなし。
「ミク……」
車の音と信号の青を知らせる機械的なメロディの合間に、私の名前が呼ばれる。
それに思わず反応してしまい足が止まる。無表情でハンドルをじっと見つめた。
視界の先に男物のスニーカーが入ってきた。けれどやはり顔は上げずに、睨み続けた。
「ミク。あの日は助けてくれて、ありがとう」
「……一ヶ月も前のことなんて忘れた」
「忘れちゃったの? あの日、ミクはおれのことを背負って、お家に連れて帰ってくれたんだよ」
「知ってるわ!」
噛み付くようにそう叫んだ。
久しぶりにちゃんと顔を見る。いつにもまして情けない、泣きそうな顔をしたハルカが、私の自転車のカゴを掴んで立っていた。
名前が呼ばれる。不安や恐れが感じ取られるその声色に無性に腹が立った。
「死ぬほどびっくりしたし全然現れないから死ぬほどムカついた! お礼言うのが遅い!」
「うん。ごめんね。あの日は助けてくれて、ありがとう。あと、毎日見に来てくれてありがとう」
はぁ!?と目を見開いた。
何でそんなことあんたが知ってんのよ! ていうか気づいてたなら出てこいよ!