あの日、血を流して倒れたハルカを家まで連れて帰ると、優しそうな雰囲気のお母さんが血相を変えて出てきた。

ハルカを渡せば、中に入って待っていてと言われたけれど、流石に気が引けたので玄関で待った。

十五分くらいして戻ってきたおばさんは何度も何度もお礼を言って私に着替えのシャツを貸してくれた。ハルカの血が落ちたのかどこかの組長を刺してきたように血だらけになっていた。

着ていた服はクリーニングしてから返すと言われて、最初は遠慮したのだけれどハルカの押しの強さはお母さん譲りなのか、最後は苗字とお母さんの携帯番号を教えて家に帰った。


そして数日後、ハルカのお母さんは菓子折りとクリーニング済みの服を持ってわざわざウチのオンボロアパートまで来てくれた。

親同士がペコペコと挨拶をした後、ハルカのお母さんは「本当にありがとう」と私にも丁寧に頭を下げた。


「ハルカ……大丈夫ですか?」


思わずそう尋ねると、お母さんは少し切ない顔をして「ええ、大丈夫よ」と微笑む。


「詳しいことは私が勝手に言えないんだけれど、命に関わるような状態ではないから、安心してね。数日後にはケロッと起きてくるわ」


そうですか、とだけ返事をした。

とにかく大きな病気じゃないならいい。

それを聞いて少しだけ安心した。


けれど数日経っても一週間経っても十数日経っても迷子のハルカを見つけるどころかあの出窓が開くこともなかった。