沈黙が流れる。何だか気まずい。
こう言う時こそあの下手くそな鼻歌を歌ってくれればいいのに、と心の中で悪態をついた。
自転車はずんずん進む。今はむしろ前のうるさい自転車の方がよかったのかもしれないなんて思う。
そんなことを考えていると、急に自転車がぶわんと揺れて「うわっ」と悲鳴を上げる。
「ちょっとハルカ! 後ろで暴れんなっていっつも言ってるでしょ!」
そう怒鳴るけれど、立て続けにぐわんぶわんと自転車がまた揺れる。
この野郎、と眉を吊り上げ次の信号で強制的に下ろしてやろうと心に決めた次の瞬間。
どさ、と大きな荷物が落ちるような音と共に、自転車が急に軽くなった。
反動でハンドルが揺れて慌ててブレーキを握る。
突然のことに驚きながら振り向くと、荷台に座っているはずのハルカの姿がなかった。
「え……?」
走ってきた道を目でなぞる。アスファルトの上に白シャツがパタパタと揺れている。
ばくん、と心臓が大きく波打った。
一歩、二歩となんとか前に進み勢いがついた足は走り出す。アスファルトの上のうつ伏せで倒れ込むハルカに恐る恐る手を伸ばした。
「ハ、ハルカ?」
「……ん、みく、ごめ……」
返事が返ってきた。意識はあるらしい。でも喋り方が変だ。呂律が回っていない。