「別に、アンタのためじゃないから。荷物が傷付かないように付けたんだからね」
「うん、嬉しい。ふわふわ」
話を聞いているのか聞いていないのか、楽しげにそう言ったハルカは荷台に座る。
それを確認してから、私は地面を強く蹴った。新しい自転車は軋むことなく加速する。二人分の重さなんて感じないくらい、風を切りどんどん進む。
思えば帰り道じゃない二人乗りはこれが初めてだった。
「すごいねミク、風より早いよ」
興奮気味にそう言ったハルカに溜息を吐く。
「そんなわけないでしょ」
「だってほら、落ち葉を追い越した」
頑張れミク、と楽しそうに声をあげるハルカ。
ぐっと腰を上げて立ちあがる。すべての体重をかけてペダルを踏めば、ぐうんと自転車は前に出た。風に髪が靡く。
目を細めてうんと背筋を伸ばした。
「──新しい自転車が前に進む音」
唐突にそう言って私の背中に体重をかけてきたハルカ。背中で押し返しながら「何急に」と怪訝な顔を浮かべる。
「好きなものしりとりだよ。ミク、知らないの?」
「聞いたことないし」
「好きなものだけを言うしりとりだよ。ほらミク、次は『と』だよ、『と』」
はやくはやく、と鼻歌を歌いながら急かしてくるハルカに顔を顰めながら、数十秒考えて「鶏の唐揚げ」と返した。
「鶏の唐揚げ、おれも好き。あつあつのが美味しいね。……鶏の唐揚げ、げ、げ。玄関を出たときのお花の香り」
「りんご」