「オプションで後ろカゴもお取り付けできますが、どうされますか?」
最寄り駅より三つ手前の駅に併設された大型ショッピングモール。その中にある自転車屋の店員が愛想よく尋ねてきて、私はすぐに「いらないです」と返した。
「いいの? 後ろカゴがあったら、荷物とかいっぱい乗せれるんじゃない?」
「……この歳で後ろカゴ付けてんのは野球部くらいだし」
店員がいる手前「ダサいし」という言葉は飲み込んだ。そしてもう一度「いらないです」と告げる。
店員は「最終調整に一時間ほど頂きます」と愛想よく笑うとバックヤードに消えていく。その背中を見送って、お母さんが腕時計に視線を落とした。
「一時間だって。待ってる間にフードコートで何か甘いものでも食べようか。未来、デザート頼まなかったでしょ」
「あー……うん。先に行ってて。買いたいものあるから」
「あらそうなの? だったらお母さんも一緒に……」
ついて来ようとしたお母さんを振り切って店を飛び出す。
館内図で目当ての店の場所を確認した後、エスカレータに飛び乗った。