機嫌よくそう提案してきたお母さん。

「別に」と言いそうになってふと脳裏に悲鳴をあげるオンボロ自転車が浮かんだ。やたら軋むし、タイヤもすり減っている。ブレーキも弱くなってきている気がする。

そろそろ後ろに人を乗せるのは危険な頃合いかもしれない。


「……自転車、新しいの買って。今の壊れそうだから」

「自転車? そうね、確かにかなり古くなったし新しいの買おうか。ショッピングモールの中の自転車屋さんでいい?」


こくりとひとつ頷く。

先に食べ終えたお母さんがスマホを持ってベランダに出た。明日のことを“高木さん”に相談するんだろう。

明日のことを考えただけでも気が重いので、さっさと残りをお腹に詰め込み自分の部屋に篭る。ベッドに倒れ込むと、枕元に置いていた本が頭に当たって顔を顰めた。

転がって仰向けになり、手にとったその本を顔の前にかざす。

児童書だ。

何度も読んでいるせいで開き癖がついている。一人の少女が不思議な世界を冒険する話で、私にとってとても大切な一冊。

表紙の著者名を親指で撫でる。抱きしめて息を吐いた。

相変わらず胸が重い。今日も息ができない。