「未来、お願いよ」
「だからお母さんの好きなようにすればいいって言ってるじゃん。私はどうでもいいから」
「だってそうは言っても……」
金曜日の夕飯の時間はノー残業デーとやらで、早く帰ってくるお母さんと唯一一緒に夕飯を食べる日だ。
どうやっても逃げられないその時間にお母さんがあの話題に触れてきた。
いつもはガミガミうるさいくせに、こういう時に限って優しい声を出してくる。そんなお母さんに反発する私がすごく惨めに思えて喉の奥が苦しい。
ガツガツとカレーを口に運ぶ。逃げれない分さっさと食べて部屋に篭るつもりだ。
「未来、やっぱりお父さんのことまだ……だったら無理しなくていいのよ」
胸の奥を触られたような不快感と、思いだしたくない記憶を掘り起こされた苦しさに一瞬息が止まる。
その気遣いがどんどん自分を意固地にしていく。
燻っていた胸の隅のドロドロとした真っ黒がむくむくと大きくなっていって肺を圧迫していく。
「……別に」
「お母さんも高木さんも未来の気持ちを優先したいの」
「だから、私は別に」
スプーンを口に運ぶ。カレーの味がしない。とにかくもうこの話題から逃げたかった。
頭のてっぺんに視線を感じる。お母さんが言葉に困ったように私を見ている。
ギッと奥歯を噛み締めた。
「……分かったよ。会えばいいんでしょ。でも会うだけだから」
米を混ぜながら呟く。
「本当にいいの!?」お母さんの声色が一気に明るくなった。
「じゃあ明日でもいい? 何か予定ある?」
「別に……」
「じゃあ明日ね。高木さんにも連絡しておくから。帰りに未来の好きな場所連れて行ってあげるわよ。どこか行きたい場所ある?」